みなさま、はじめまして。本日より知多市勤労文化会館の芸術監督および館長に就任しました、樫野元昭と申します。

わたしは、2018年まで18年間アメリカに住み、その間は劇場にはおもに出演者(サックバット(古楽器のトロンボーン)奏者、指揮者)として、また、ときには曲目解説の執筆者などとして関わってきました。また、劇場での活動のほかに、大学講師としての教育活動、博士課程を終えるまでの研究活動などもしていました。日本に帰国して数年ですが、このたび知多にお迎えいただき、これから何ができるかワクワクしながら考えています。

さて、ごあいさつにかえて、ここではわたしの考える「劇場」について書かせていただき、これからどういう劇場を創っていきたいか、その方向性をみなさまと共有したいと思います。

非常に月並みな言葉ですが、僕は劇場を「日常と非日常の出会う場所」だと思っています。日本に「劇場法」という法律ができ、劇場の一つの定義として、劇場は「新しい広場」であれ、という指針ができました。みなに開かれた、誰でも気軽に訪れて、文化・芸術を「享受」したり、それに「参加」したりできる場所。そこでは劇場は日常の延長として、みなさまに心地の良い居場所を提供するという使命があります。

人と人とのつながりが希薄になり、独居老人などの問題も存在感を増す中、共通の文化的・芸術的興味を介して、地域の人々が世代やバックグラウンドを超えて繋がることが出来る場所を提供する。これは現代の劇場の大きな使命のひとつだと思っています。知多市勤労文化会館では、樋口前館長を先頭にこの課題に深く取り組んできました。この活動は、これまでの歩みの延長として、色々な興味を持って様々な形で文化活動に関わる利用者のみなさまに対し、より広く公平に支援を広げていくかたちで、さらに充実させていきたいと思っています。より多くのみなさまが、それぞれの興味に合わせて文化活動に飛び込んでくるきっかけになれば、それ以上に嬉しいことはありません。

もう一方で、劇場の古くからの機能としては、卓越した演者を舞台に迎え、舞台と客席に明確な境界ができるくらい、その芸術・美技に酔いしれる、そんな「非日常」の空間を提供するというものがあります。これからの知多市勤労文化会館は、この役割も今まで以上に果たしていきたいと思っています。そしてどちらかというと、芸術監督としての僕のカラーはこちらに現れるのかな、とも思っています。

劇場によって、出し物を選ぶ基準というのはさまざまです。テレビに出るような有名な演者を集めるところもあれば、地元で活動する人たちを中心に出演者を選ぶところもあるでしょう。音楽公演の例では、クラシックだけが芸術だ、というところもあれば、とにかくチケットが売れる演目を、と割り切るところもあります。

われらが「きんぶん」では、シンプルに「良いもの」を集めたいと思っています。それは、必ずしもテレビに出るような有名な人ばかりではないかもしれません。「有名人を呼ばない」といった逆張りをするつもりはありませんが、知られていなくても、誠実に活動を続けて、素晴らしい音楽や演劇、話芸などで、世界に通用する「非日常」を体験させてくれるアーティストはたくさんいます。そんな人たちを、日本中、世界中から探して公演をお届けしたいと思っています。何年かしたら、「聞いたことのない人・演目だけど、きんぶんでやるならきっといいはず」と言って劇場に来て下さる人がたくさんできたらいいなと思い、それを目指していきます。

わたしのアメリカでの演奏時代、同僚にはジュリアード音楽院の教授たちなど、一流の演奏家が多くいました。そんな中でも、一番素晴らしい演奏をする人たちは、すぐれた演奏技術はもちろんのこと、たいてい謙虚で、お客さまだけでなく、同じプロの仲間から尊敬され、愛されていました。わたしは、演奏や演技の素晴らしさについては、直感を大事にしています。それに加えて、非日常を楽しみに劇場に集まるみなさまと深くお付き合いいただけるような人柄も合わせ持った、きんぶんの家族として迎えたい人たちを選んで、みなさまにご紹介したいと思っています。

はじめましてのご挨拶としては長くなりすぎました。とりとめなく書いてしまいましたが、これでいったん筆を置きたいと思います。今年度は主にすでに予定されている事業をしっかりと実施しつつじっくりと準備をして、来年度からは新しいことをたくさんご提案していきたいと思っています。ひとまずは、きんぶんに来てくださるみなさまとお話できるのを楽しみにしています。

これからよろしくお願いします!

令和4年4月1日

知多市勤労文化会館 芸術監督/館長
樫野 元昭

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