みなさま、新年あけましておめでとうございます。知多市勤労文化会館 芸術監督/館長の樫野です。本年もよろしくお願い申し上げます。

いつもの、毎月20日前後に公開させていただいている「芸監だより」以外では、初めて記名にて記事を書かせていただきます。というのも、表題にあります『岡田ものがたり』について、まだご存知ない方にぜひご案内したいと思ったからです。

この事業は、知多市の岡田地区に残る古い街並みを、観光資源として活用するという目的でスタートしました。このような取り組みに対して国や自治体からさまざまな助成制度がありますが、わたしが4月に着任した際、芸術監督なんて名乗る人が来るのは初めてだということで、市や観光協会の方からアイデアはないかとご相談をいただいたのがきっかけでした。

そこで真っ先に考えたのが「演劇」と結びつけることでした。わたし自身昨年4月から岡田の住人となり、その古い街並みには愛着も湧いてきておりますが、物言わぬ建物でもあり、現代とは切り離された美しい史跡として見るだけでした。これを、そこに生きた人々を題材にした「演劇」という手段を使えば、年月に隔絶された建物たちがリアルな文脈で浮かび上がってくるのではないか、と考えたのです。

このシンプルな思いつきにすぎないアイデアが、関係者のみなさまのご尽力により、演劇鑑賞を核としたモニターツアーという形にまとまり、あれよあれよという間に観光庁の助成に採択され、この事業が実現したわけです。

さて、やるということは決まりました。ここで、わたしに課せられたのは、このアイデアの「演劇」の部分を形にするアーティストを探すことでした。この事業において、「歴史の教科書的なお話にはしない。このまちが見守ってきた、岡田の普通の住民たちの物語をつむいでほしい」「舞台が岡田である必然性のあるものを作りたい。観光と演劇のコラボレーションとはいえ、地名や名産品などがセリフに登場するだけで、プロット自体は舞台はどこでもいいというようなものでは意味がない」というのが前提となりました。これを実現するため、お願いするアーティストには、岡田を訪問、できれば岡田に滞在していただき、街を見て、また街の人の話を聞いて、十分な取材の上で執筆をお願いしたい、というのは譲れない部分でした。

そこで、最初にコンタクトをとったのが、名古屋を拠点に活動する劇団あおきりみかん主宰にして、世代の演劇界を代表する劇作・演出家のひとり、鹿目由紀さんでした。とにかくご多忙極まる鹿目さんでしたので、この時点での本命の目的は、このプロジェクトに興味のありそうな若手の作家をご紹介いただくことでした。

それが、お話をしたら、ご本人にお引き受けいただけるということになりました。この時点でもう天にも昇る気持ちだったことを覚えています。最終的に作家陣は、鹿目さんをはじめ、同劇団の平林ももこさんとカズ祥さんという才能溢れる若手の作家のお2人を加えた3人体制で、それぞれ15分程度の短編を執筆し、それをひとつにまとめるということになりました。

作家のみなさんと取材にも同行させていただきましたが、街を歩けば昔の岡田の様子を詳しく、たとえば今はない西銀座商店街にあったお店の並びなどまでを聞き取り、神明社に詣り、座談会でお話を伺った街歩きガイドさんやかつての女工さんたちへの質問も途絶えず・・・。とにかくワクワクし通しのプロセスでした。膨大な情報を作家のみなさんがどのように戯曲に落とし込んでいくのか、誰よりも楽しみに待たせていただきました。

そうしてできあがった『岡田ものがたり』〜木綿がつむぐ、人のやさしさ〜。50分の作品で、同時代を岡田で生きた3人の女工さんの、それぞれのものがたりが紡がれます。しかも、会場は岡田の古い建物のひとつで、有形文化財の古民家「雅休邸」です。岡田のモニターツアーの一環として上演されますので、ぜひツアーにお申し込みください。ツアーは2月第1週まで催行日があります。売れていないから宣伝をしているわけではなく、本当に知っていただきたくてこれを書いていますので、すでに満席になっている日程もあります。ご了承ください。

ツアーのお申し込みはこちらから

実はわたしも、今回照明と音響の操作をするスタッフとして毎公演会場におります。コントロールボードのうしろに座るのは初めてではないのですが、唯一の経験はアメリカにいた頃にDisney on Classicの副指揮者として、音響技師さんの隣に座り、オーケストラの各楽器の音量のバランスの指示を出すというだけの役目でした(しかも技師さんは当然その道のプロですから、僕は基本的にはおとなしく座っているだけ)。今回は、実際にボードの操作をします。そんなスリルも見どころです(?)

稽古、それに今日の初日公演と、何回観ても笑ったり泣いたり。素晴らしい作品に関わらせていただいている幸せを噛み締めています。ぜひ、ぜひご覧ください!

Follow me!